ロシアを盟主としたユーラシアの旧共産圏で、原発導入の動きが相次いでいる。「脱炭素」の流れで火力発電を敬遠する動きが強まったのが契機だ。ロシアが旧ソ連諸国を相手に「原発外交」を強める一方、米国も東欧でのロシアの影響力を弱めようと原発輸出に積極的だ。(モスクワ・小柳悠志)

旧ソ連・中央アジアのキルギスは1月21日、小型原発の建設に向けて、ロシア国営原子力企業ロスアトムと提携協定を結んだ。完成後は二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力の稼働を減らす。

「原子炉が小型なら保守点検や組み立ても簡単だ」。ロスアトム幹部はタス通信にこう語った。ロシアはトルコや中国で大規模な原発を建設してきたが、小型原発を周辺国にも売り込む構え。当該国に建設の債務を負わせ、長期的にロシアの影響を及ぼす作戦だ。

ソ連製原発が残るカフカス地方のアルメニアや、ロシアの西隣ベラルーシでも、ロスアトムが参画しての原発新設が取り沙汰される。両国ともロシアと軍事・経済面の結び付きが強い。

 中央アジア・カザフスタンも昨年末、ロスアトムと協力し、原発建設を目指す方針を公表した。中国から暗号資産(仮想通貨)を生み出す「マイニング(採掘)」業者が流入し、採掘のコンピューター演算で電力不足が深刻化しているためだ。

一方、欧州連合(EU)に加盟する旧ソ連バルト3国のうちエストニアは、日立製作所と米メーカーGEでつくる原子力企業と提携、小型原発の導入を目指す。エストニアは「オイルシェール」と呼ばれる岩石を燃料にした火力発電が主力だったが、Co2排出量や環境汚染が課題だった。

石炭火力が盛んなポーランドも昨年末、原発建設地点を決定。2033年までの運転開始を期し、米企業と協業する。福島第一原発事故で、原発ビジネスが落ち込んだ米企業にとっては願ってもない商機となる。

東欧はソ連の強権支配に苦しんできたが、現在もロシア産天然ガスに依存せざるを得ない状況。このため、脱ロシア依存と脱炭素を一気にかなえる手段として、原発への注目度は高い。例外的にEU内の親ロ国、ハンガリーは、ロシアと協力して原発を建設する。

EUの統計によると、東欧での原子力比率はスロバキア(54%)、ハンガリー(46%)、ブルガリア(41%)を筆頭に高い。

EUは、旧ソ連リトアニアなどに対し、EU加盟の条件としてソ連製原発の廃止を要求するなど、東欧の「脱ロシア化」に意欲を燃やしてきた。こうした経緯から「原発はロシアとEUの戦いが永遠に続く分野」(アルメニアのエネルギー研究者バゲ・ダフチャン氏)と評される。

米国はロシアの兄弟国家と呼ばれるウクライナに対しては核燃料を供給。ウクライナのソ連製原発を、米国製の燃料で稼働させる態勢を構築した。東欧メディア・ルバルティクは「米国にとって、東欧はロシアのエネルギー覇権拡大を阻む最前線」と分析している。

◆小型原発開発ラッシュ…事故リスクは不明

近年、温暖化対策や過疎地のエネルギー源として、ロシアや米国が小型原発(小型モジュール炉)の開発を急いでいる。工期が短く「安全性も高い」とうたっているが、事故のリスクについて明らかになっていない点も多い。

ロシアは洋上で発電する「船舶型原発」(出力7万キロワット)を実用化し、北極海に面した街に停泊させて住民に電気と熱を供給している。船舶型のため小回りが利き、電気を必要とする地域に自ら赴ける利点がある。

米ベンチャーも格納容器ごとプールに入れて稼働させる小型炉を開発中。地震などの非常事態でも炉心を安全に冷却できるとの発想だ。いずれも核の廃棄物が出るなどの課題は変わらず、導入に反対する声は世界で根強い。