巨大なロシアの原子力砕氷船が凍り付いた北極海を突き進み、北極点(North Pole)への航路を切り開く。見渡す限り真っ白な世界。だが、ここでも気候変動の影響がうかがえる。

1990年代や2000年代初期には、氷はもっと手ごわく、分厚かった」と、砕氷船の船長を務めるドミトリー・ロブソフ(Dmitry Lobusov)氏(57)は語る。30年近い船乗り生活の多くの時間を、北極圏で過ごしてきた。

 昔は何年も融解しない氷がかなりあったが、「そんな氷も、今ではめったに目にしない」と話す。

 ロブソフ氏の「50年の勝利(50 Let Pobedy)」号は、ロシアが増強中の大型原子力砕氷船団に属している。船団は、北極圏において、ロシアの力を誇示する役割も果たしている。

 砕氷船は氷結した海で商船を先導し、ロシアの原油や天然ガス、鉱物資源を世界中に輸送させる。ロシアは、アジアと欧州を結ぶ「北極海航路」を定着させる方針で、同航路をスエズ運河(Suez Canal)経由の南周り航路に匹敵する航路だと主張している。

 塩分を押し出しながら数年がかりで形成される多年氷は、より厚く強固になるとロブソフ氏は説明する。そのため、砕氷船で航路を切り開くのに苦労するという。だが今日では、ほとんどの表層結氷はその年に形成され、夏になるとすぐに融解するという。

■融解する表層結氷

 これが気候変動の影響であることは間違いないというのが、科学者の見解だ。

 ロシア水文気象環境監視局(Rosgidromet)の3月の報告によると、北極の表層結氷の厚さは現在、1980年代の5分の17分の1だ。夏季に氷が張らない海面も年々増えているという。

 20209月のロシア北極圏での表層結氷の面積は、同時期では過去最低の26000平方キロまで縮小している。

 さらに、国土の3分の1が北極圏内にあるロシアは1976年以来、気温が10年に0.5度の割合で上昇。地球全体の平均より速いペースだという。

■連鎖反応のプロセス

 長らく気候変動には懐疑的だったウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は近年、方向を転換した。ロシアの炭素排出量を2050年までに、欧州連合(EU)のレベル以下に削減する計画を策定するよう政府に命じている。

 シベリアで山火事が猛威を振るった今夏、大統領は「まさに未曽有の」自然災害の連続に危機を覚えると語った。

 砕氷船に搭乗していたベテラン極地探検家ビクトル・ボヤルスキー(Viktor Boyarsky)氏(70)は、人間の活動が温暖化の重要な原因ではないと主張する。

 ロシアの北極南極博物館(Arctic and Antarctic Museum)の館長を務めていたボヤルスキー氏は、表層結氷が後退することで、大西洋の温かい海水が流入すると言う。「連鎖反応のプロセスだ。氷が減ると、海水が増えて温度も上がる」

■「私たちはただの客」

 ロブソフ船長によると、北極は氷が薄くなっただけでなく、夏場には霧に包まれるという。「これも温暖化の影響だと思う。湿度が上がっている」と語る。

 さらに、190以上の島からなるフランツヨシフ諸島(Franz Josef Land)などで、北極圏の氷河が縮小しているのを目にしてきたという。

「多くの氷河が、地図に示されている位置から島の中心部に向かって後退している」とし、「間違いなく、暑さのせいだ」と話した。

50年の勝利」号は、ロシアの国営エネルギー企業ロスアトム(Rosatom)が運営する砕氷船団の一隻で、北極点に59回到達している。

今回の航海には、海外旅行が賞品のコンテストに勝った10代の若者グループも乗船していた。

 全長160メートルの同船がフランツヨシフ諸島のゲオルグ島(Prince George Land)沖を通過した時、1頭のホッキョクグマが船を見ながら氷の上を歩いていた。

「ここはクマが仕切っている。ここがすみかなんだ」と船長は言う。「私たちはただの客だ」 【翻訳編集】 AFPBB News