原子力エネルギーは、まれな存在だ。炭素を排出しないエネルギー源でありながら、大げさに宣伝されておらず、ワシントンで党派を超えた支持を受けている。目下の大きな疑問は、コストを下げる可能性のある新技術が実際に機能するかどうかだ。

 各国政府は、予測可能な無炭素エネルギー源として、原子力発電を見直し始めている。原子を分裂させてエネルギーを放出させる核分裂技術は、1960年代~70年代にかけてもてはやされたが、スリーマイル島やチェルノブイリ、福島での事故を受けて支持を失った。

ドイツをはじめ、安全リスクや廃棄物の問題で脱原発に踏み切った国もあるが、ほとんどの経済大国では、炭素排出ネットゼロの電源構成に原子力エネルギーを含める見通しだ。バイデン米大統領が提出した1.2兆ドル(約136兆円)のインフラ法案には、少なくとも85億ドルの原子力関連予算が盛り込まれている。欧州連合(EU)では、原子力をグリーンエネルギーとして分類することを検討している。英国、ロシア、中国、日本、韓国はいずれも、原子力に一定の役割を与える意向だ。新しい原子炉を建設する上でのコストや難題を考えると、政治的な後押しが重要になる。

だが20世紀の原子力発電に対する考え方では、懐疑的な見方をされるのも当然だ。何十年にわたる経験にもかかわらず、大型原子炉の新設は依然として、建設の遅れやコスト超過がつきまとう特注の大規模プロジェクトだ。投資銀行ラザードによると、原子力発電の均等化発電原価(LCOE)は1メガワット時当たり131204ドルと、他のほぼ全てのエネルギー源よりも高い。また、原子力発電コストは、年々下がるどころか、むしろ上がっている。

本当の意味で有望なのは、「モジュール式」原子炉だ。そのシンプルな設計や標準化された部品、受動的安全性は全てコスト削減に寄与する。規模が比較的小さいため、設置場所の確保や、再生可能エネルギーを断続的に使用する電力網への統合もしやすい。モジュール式原子炉の推進派は、従来の原子炉にかかるコストと建設期間を半減できると見積もっている。

アプローチの一つは、既存の技術を利用して、小型モジュール炉(SMR)を建設する方法だ。典型的な従来型の原子炉の発電容量が1000メガワット前後かそれ以上であるのに対し、SMRは数メガ~500メガワット程度だ。制御された核分裂反応によってウランを分裂させ、そのエネルギーで水を熱して蒸気に変え、それでタービンを回して発電する。水は原子炉の冷却にも使用される。SMRは、地下や水中に設置するなど受動的安全措置を用いることで、よりコストの高い安全対策を講じる必要性を減らしている。そのため、建設費は安く済むが、反対派は災害の増加につながりかねないと懸念している。

多くの企業がSMRに取り組んでいる。ロシアのロスアトムは、北極の船上でSMRを製造している。米オレゴン州に本社を置くニュースケールは、米原子力規制委員会(NRC)からSMRの設計の承認を受けており、2027年までにルーマニアに建設する契約を先月発表した。英ジェットエンジンメーカーのロールス・ロイスは最近、米シカゴに本社を置くエクセロン・ジェネレーションとSMRを建設するコンソーシアムを立ち上げ、2031年に最初の発電所を稼働させる計画だ。また、中国核工業集団、フランス電力公社(EDF)、米ホルテックなどもSMRの建設を計画している。

 新しい核燃料や、水の代わりにガスや塩を使用した冷却システムなどの新しい技術を使用し、モジュール式原子炉を製造しようとしている企業もある。これらの先進的な設計は、事故のリスаクを低減し、断続的な電力にも柔軟に対応できるようにすることを狙いとしている。

中でも最も進んでいるのが、中国の中核能源科技(チナジー)だ。同社は最近、山東省に200メガワットの高温ガス冷却炉を完成させており、年内に電力網に給電する見通しだ。また、テレストリアル・エナジー、BWXテクノロジーズ、シーボーグ・テクノロジーズなども、有望な設計や計画を持っている。

 2020年には、米エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラム(ARDP)が、2027年までに完成させる予定の二つの先進的原子炉実証プラントを共同設立した。一つは、ビル・ゲイツ氏が支援するテラパワーがGE日立ニュークリア・エナジー(GEH)と共同で設計し、ワイオミング州の石炭火力発電所の跡地に、エネルギー貯蔵装置を備えた345メガワットのナトリウム冷却高速炉(SFR)を設置する。もう一つは、Xエナジーがワシントン州に建設するもので、特殊なウラン岩を燃料とする同社の80メガワットのヘリウムガス冷却炉4基を使用する。それは、水素の生産や水の淡水化にも利用できる。バイデン氏のインフラ法案では、この二つのプロジェクトに25億ドルを割り当てている。

原子を結合させてエネルギーを生成する「核融合」技術にも、安全性や廃棄物に関する懸念を軽減するイノベーション(技術革新)が起こっている。コモンウェルス・フュージョン・システムズは今月、2030年代に原子炉を建設するプロジェクトに18億ドルの資金を確保した。しかし、商業的に実現可能な核融合技術は依然として大きな賭けだとみる向きが多い。

 原子力エネルギーは、株式投資家にとって難しいテーマだ。モジュール式原子炉は、EDFやロールス・ロイス、エクセロン、ニュースケールの親会社フルアーなどの企業にとっては、副業にすぎない。テラパワーやXエナジー、コモンウェルス・フュージョン・システムズなどの専門企業はまだ上場していない。

今のところ、それは悪いことではないかもしれない。SMRや先進的原子炉などの最新の原子力技術は、コスト競争力のある電力をもたらす可能性があるが、その実現性を証明する必要がある。原子力は無炭素エネルギー源としてよく知られているが、投資家にとっては、まだ機は熟していない。