政府は2050年カーボンニュートラルに向け、高温ガス炉を活用した水素製造の技術開発に注力する。今年、再稼働を見込む高温工学試験研究炉「HTTR」などを活用し、30年をめどに水素製造の技術開発を進める。「実質ゼロ」達成にはカーボンフリー水素が必要で、原子力技術を活用すれば大量、安価に供給できる可能性がある。発電、産業用の熱供給と併用することで、50年に天然ガス価格並み1ノルマル立方メートル当たり約12円のコストを目指す。

 50年「実質ゼロ」達成には、あらゆる選択肢の追求が不可欠で、政府は原子力分野でも革新的技術の開発を進める。経済産業省が昨年末に政府の成長戦略会議で報告した「グリーン成長戦略」で、原子力分野は「小型炉」「高温ガス炉」「核融合」の3本柱が掲げられた。中でも高温ガス炉は既に研究開発炉が国内に存在し、日本が一定の優位性を持つ分野として知られる。

 水素の活用は「実質ゼロ」達成に向けた重要な要素だが、化石燃料で製造すれば環境価値が下がってしまう。再生可能エネによる水の電気分解で製造する「グリーン水素」とともに原子力の活用が注目されている。

 現状、HTTRは水素製造装置を持っていないが、将来的には取り出した高温熱を活用し、ヨウ素、硫黄の化学反応を組み合わせて水を分解する「ISプロセス」などでの水素製造を想定する。太陽光での水の電気分解と比べ、敷地面積が約1600分の1に抑えられ、同時に熱を供給できることから産業プロセスの脱炭素化とも親和性が高い。

 グリーン水素などと同様、商用化に向けた道のりは長いが、まずはHTTRが再稼働しなければ何も始まらない。高温ガス炉は固有の安全性があるが、原子力規制委員会による新規制基準適合性審査では先行例がなかったため、重大事故の相場観がなく、その想定を巡る議論などが審査長期化の要因となった。

 ただ、昨年6月に原子炉設置変更許可を取得。分割で申請した設計・工事計画認可(設工認)の手続きも最終段階に入った。日本原子力研究開発機構は現状、早ければ今年7月の再稼働を見込んでおり、地元自治体への説明も継続的に進めている。高温ガス炉の研究開発では中国の急速な発展が目立つなど、他国の追い上げがみられる。「実質ゼロ」に向けた歩みを着実に進めるためにも、まずは原子力機構によるHTTRの再稼働が期待される。